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All Around Japan

 

 2013年1月5日たった9ヶ月しか務めなかった会社を退職した。社会の事なんてなにも分からないままの退職。もちろん理由は日本一周自転車で回りたかったからだ。ただ、それは単純に社会に出たくなかった適当な理由だったのかもしれない。どっちもほんとの気持ちだったのかな。と今ではそう思う。

 一番辛かったのは仕事をやめてから出発までの3ヶ月。バイトを掛け持ちしてひたすら働いた。居酒屋の前でチラシを配る僕の前を、大学の同期がスーツを着て営業に行く姿は今でも忘れられない。「自分はやっぱり社会から逃げただけなのかもしれない。」日本一周した後のプランなんて全くの白紙。それに、「そもそも自転車で日本一周なんかできるのか?」そんな疑問すら抱いていた気がする。

 

 そして、出発予定の4月1日エイプリルフール。前日兄弟と飲みすぎて、若干二日酔い気味で出発したのは覚えている。前日まで当たり前のように流れていた日常が、「今日から変わる」というのが信じられなかった。

 単純にこんなに重い自転車は乗った事がなかったし、車道を走る難しさ、坂道のしんどさ、そしてお尻へのダメージ。何もかも昨日まではなかった日常。そしてこれを何日続けないといけないのか?そんな事を考えながら、地元大阪から和歌山へ向かってペダルをこいでいた。そして、もちろん太陽は沈む。初めての野宿テントなんてどこに張っていいのか分からない。許可がないとどうなるのか?誰に許可をとればいいのか?公園で遊ぶ子供たちですら帰る家があるんだな。と家があった昨日までがほんとに幸せだったことに気づかされた。4月の夜はまだまだ寒くいくら寝袋に入っても寒さはしのげなかった。それに、夜の人声ほど、眠りを妨げるものはない事を思い知らされた。結果、熟睡など出来ず腹痛と共に朝を迎えた。

 

 そんな事を感じるのはやはり初めだけ。2週間もあればどこでも寝れるようになり、そこそこ満足できる食事も自分で作り、公園の水道で洗濯物をあらって、心も体も鍛えられていった、、、ただ、たかが2週間。日本地図を広げるとまだまだ広がる日本の土地。無事大阪に帰れるかなんて全く想像できなかった。

 そんな不安を解消してくれたのが、常に変化する周りの景色。大阪にいては絶対に築けなかった小さな事から大きなこと。目に見える事から見えない事。

 まだ誰も起きてないような時間に起きて、朝焼けを見ながら朝食を食べ、静かで澄んだ空気の中、自転車を進ませる瞬間は、たまらなく爽やかで爽快だった。これは経験した人にしか絶対にわからないことだろう。そして、日中は自分で好きな道を決めて、好きな目的地にいき、好きな時に休む。良く言えば「主体的」悪く言えば「怠け者」。夕方は寝床を早めに決めて夕食の準備。もちろん夕日を見ながら。太陽が沈めば就寝。

 もちろん、この旅は楽しい事もたくさんあった。でもそれの何倍のも辛い事をしたからこそ、その「楽しさ」を得られたのかもしれない。ただ単純に北海道に飛行機で旅行に行って、レンタカーを借りて目的に到着する道中、食べたいのもを食べ、景色に感動しながら最北端の「宗谷岬」に行くのと、自転車で大阪から3カ月かけて到着した「宗谷岬」では感じ方がまるで別のもだと思う。もちろん景色は同じ。立っている場所も同じ。でも苦労があって、達成感があって、自分でほんとにここまでやってこれたんだ!そして、これ以上北に行くと日本は存在しないんだ。という感覚になった。

 もちろん、今まで北上してきたからには、南下が待っている。まだまだ旅は3分の1も終わっていないのに、なぜか来た道を帰っているような気分になり、少し寂しさがこみ上げてきた。

 しかし、結果的にそんな寂しさを吹き飛ばしてくれたのは、「人」だった。

 やなり、人が生きていくには、もちろん「きれいな空気」「安心して食べれる食物」「ゆっくり休める寝床」も大切ではあるが、なによりも大切なのは、「人」だと思う。もし人と人と関わりがなくなってしまうと、どうなるだろう。もし世界に一人だけだと、どうなるだろう。オシャレをしても見てくれる人がいない。大きな家を建てても招待する人がいない。おいしいご飯を作っても食べてくれる人がいない。人はどう考えても一人では生きていけない。どこかで誰かが、自分を思ってくれて、また自分が誰かを思う事で、世の中は成り立っているのかもしれない。もし「汚い空気」「安心して食べれない食物」「ゆっくり休めない寝床」だとしても、人はそれを変える力がある。でもそれは一人では絶対にできない。

 そして、そんな未完成な「人」に自然や動物はたくさんの学びや気づきを与えてくれる。

一日の始まりの朝日は、希望を

一日の終わりを告げる夕日は、感謝を

夜空一面に広がる星空は、感動を

厳しい環境で生きる動物たちは、逞しさを

壮大な山々は、力強さを

透き通る川や海は、素直さを

自然から学ぼうと思えば、どんな事でも学べるという事を知れた。そもそも、日本の景色を自分の目で見たいという気持ちから、日本一周を始めたはずが、結果、目に見えない物を見る大切さを見に行く事が出来た。この9カ月の経験は自分にとって欠くことのできない物となっている。

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